坂本龍太朗のワルシャワ通信(6月16日〜6月20日)

6月16日

次のウクライナへの支援物資搬入は明後日。先週末に続き、今週も支援物資集めに奔走している。今回も大量の医療物資を運び入れる。ウクライナの方に引渡す前に少し時間があったので改めて医療バックを開けて一つ一つ見てみた。中には簡単な説明書もあり、7ヶ国語で書かれている。ウクライナには国境なき医師団も入っているし、その中には日本人もいる。今回運び入れる医療物資の1部でも日本人医師に届くことになるなら、日本語で激励メッセージぐらい入れたいところだ。

・今回運び入れてくれる方は避難民ではない。基本はウクライナで住んでおり、戦争が始まってから今回ポーランドに来るのは2度目。なぜ避難民でないかというと、1度ポーランドに入っても、その後1ヶ月以上帰国した場合には「避難民」としてのステータスは失われるためだ。これだけ避難民が多いと、1度ウクライナ国内避難民となり、その後環境の悪化でまたポーランドに入りたいという人も少なくないだろう。しかしそういった人々は再び避難民として社会保障などの保護対象にならないことがある。どこかで線引きが必要だが、これがまた難しい。戦況のゆくえなんて誰にも分からないわけだし。

・もっと深くウクライナ国内を見てみると、毎週末のように田舎でもお葬式がある。ウクライナ兵が前線で戦死し、無言でふるさとに戻ってくるためだ。それでもウクライナは戦争を続けざるを得ない状況にある。戦争をやめてロシアの実質的支配下に置かれたら、こんな悲劇じゃ済まないことが歴史からもよく分かっているから。

6月17日

・ウクライナ西部には避難民が押し寄せているというイメージがあるが、実はそこでも避難民は減っている。プライバシーなどがない避難所から、行く場所の選択肢は2つある。1つは戦地へ帰宅すること。もう1つは外国に出ること。ただ、外国に出たとしても過去3か月のような支援は残念ながらない。例えばポーランドの場合、7月からは電車も有料になるし、今まで無料で行けた動物園や博物館なども今はチケットを買わなければならない。受け入れ家庭に対して支給されていた1日1人1200円の補助も終わる。念のため断っておくが、私の家では今まで計1か月以上避難民の家族を受け入れてきたが、1円も受け取っていない。申請する余裕がなかったし、そもそも申請してすぐにもらえるようなものではない。

・例えば子供手当てなども支給が始まったのは5月中旬ぐらいからだと聞く。このような状況だと、日本に行くという選択肢を考える避難民も、もしかしたら増えていくかもしれない。プリンターなどをウクライナに持って行ってくれる方とお茶を飲みながら戦況やウクライナの今度について話した。話している途中で何度も飛行機が上空を飛ぶ。私にとっては普通のことだが、ウクライナから来ているその方は体が膠着し、怖がっていた。その方は、改めて言うがウクライナ西部に住んでいる。この話だけでも戦場にいる人たちの心の傷は計り知れない。

もしロシアの人々も、飛行機の音で戦争を感じ怖がるような心境にあったら、もっと反戦の動きがロシアでも活発になるだろうと思う。しかし残念ながら、ロシアでもウクライナ戦争に関心を持っている人の割合は減ってきていると聞く。

6月19日

・先日送った靴やガスコンロなどがミサイルが飛び交うドンバス地方に届いたと報告あり。戦地に届くまで何人もの運送ボランティアが活躍している。物資を送っても途中で売り飛ばされたり、中抜きされたりするケースが頻繁に報告されている。そんな中、私が送っているものではそういったケースがないのは奇跡に近い。それは信頼できる人々、それも団体ではなく個人の繋がりで協力しているというのが1番の理由だと思う。また前線の人々が直接繋がっているため、途中で中抜きしたらそもそもバレる。

6月20日

・ポーランド各地にある学校でウクライナ支援のための募金活動などが行われている。ワルシャワ南部のとある学校でも同じような活動が行われたが、どうやら集まったお金の中にウクライナ通貨フリヴニャがたくさん入っていたそうだ。恐らくその学校に通っているウクライナの子どもたちが、しばらくウクライナには帰れないので持っていても仕方ない小銭を入れたのだろう。中には青いものもあるが、これはキエフの地下鉄チケットコインである。その学校で集められたこのウクライナ通貨は行き場を失っていたが、最終的に私のところに来た。もちろん、支援物資搬入と一緒にウクライナに送ってほしいというわけだ。

・ほとんどがコピーカという小銭であり、フリヴニャドルとすると、コピーカはセントに相当する。そのため額としては総額でもたいした金額にはならない。しかしこのコインはウクライナの子どもたちにとってお小遣いだったかもしれないし、避難する時にお守りのように持ってきたものかもしれない。そこに価値があるわけで、ウクライナに送る時もその点をしっかりと伝えようと思う。
・ちなみにフリヴニャとは「馬のたてがみ」を意味する。

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