小雪
小雪や声ほそほそと鳥過ぐる 鍵和田 秞子
小雪は、立冬から十五日後、雪が降り始める頃という意味を持つ二十四節気です。地域によっても異なりますが、雪がまだ降っていない土地にも、山間部の雪の便りが届く頃。今年の小雪は11月22日です。
朝晩は暖房を入れるようになり、外出のときはコートやマフラーが欠かせなくなってきました。動物たちも冬の寒気に敏感になるのでしょう。木々の間を行き交う鳥の声もこころなしか寂しげに聞こえます。この句では、その声を「ほそほそと」と表現しています。「ほそぼそ」ではないのです。
秋に北方から渡ってきたばかりの小鳥たちは枝に止まって楽しげに鳴いていましたが、今はわずかに声をこぼしつつ飛んで行きます。その声を「ほそほそと」と表現したことで、寒さの中の小さないのちへのいたわりが感じられる句になっています。
キビタキ
障子
出雲から紙来て障子あらたまる 飴山 實
この句の季語は障子です。現代生活の中では障子に冬という季節感がありません。ではなぜ冬の季語なのでしょうか。歴史を振り返ると、平安の末期に、「明り障子」ができたそうです。それまでは襖や衝立が廊下と部屋の間を仕切っていました。でも襖を入れると部屋が暗くなってしまうので、木の桟に白い和紙を貼って明りを取り入れた。それが障子の始まりです。江戸時代になって和紙の普及と共に庶民の間にも広まったそうです。夏場は風を通すために障子を外しますが、冬になって障子を入れると温かくなるのです。木と紙でできていると言われる日本の家屋の知恵がここにも窺えます。
この句は出雲和紙が障子紙に使われたということを言っています。出雲は古来から和紙の産地でした。昭和30年代までは障子にも手漉き和紙が使われていたそうです。出雲という神の地から和紙が来たことへの有り難さが「あらたまる」に表われています。
石蕗の花
土擦つて門ひらかれぬ石蕗の花 鈴木 鷹夫
この句にも日本家屋の風情が感じられます。門を開けようとしたら、門が地面を擦ったというのです。おそらくこの扉は木製でしょう。門を作った当初は、地面すれすれに出来ていたのですが、歳月が経って、木は湿気で膨張し、地面の土も少し変化して、今は開くたびに扉の底で地面を擦るというのです。些細なことですが、そこに目をつけて、そこだけを詠んだところがおもしろいですね。そういえばそういうことがあるなと読者に思わせ、周囲の雰囲気や人物まで思い描けるというのは俳句の力の一つです。
作者は、ずずずっと地面を擦って開かれた門に招き入れられたのでしょう。すると石蕗の花が目に飛び込んできた。玄関までの短い小道ですが、住んでいる人の落ち着いた暮らしが感じられて、その清閑な趣に惹かれたのです。
凜とした石蕗の花の黄の鮮やかさと気品に心を寄せたくなる季節です。