季語でつなぐ日々

第40号/短日、毛糸編む、冬の花蕨

投稿日:

短日

短日のまだあをぞらの龍馬像  友岡 子郷

昼間の時間が短くなることが「短日(たんじつ)」です。「日短(ひみじか)」「暮早し」と言い換えることもできます。夜が長い「夜長」は秋の季語ですが、同じことを反対から言った「短日」は冬の季語とされています。日照時間が短くなることと、一年の終わりに近づいて気忙しくなることが相まって、短日は冬だと思わせるのかもしれません。

この句は高知県の桂浜の、海に向いて立っている坂本龍馬像だと思いました。冬は日沈が早いけれども、まだ海の上に青空が広がっているのです。そのとき、龍馬の生涯を想ったのでしょう。短くとも勢いよく駆け抜けた龍馬の青春は、永遠に輝いていると思えたのです。

毛糸編む

モナリザに持たせてやりたし毛糸棒  林 佐

思わず笑みがこぼれるような句です。モナリザの手は、その微笑みとともに印象的です。左手の手首のあたりを右手がそっとつかんでいて、脈をとっているようだと思っていましたが、この句の作者は、毛糸編みの手を休めているように思ったのです。手が交差しているので編んでいる途中には見えませんけれども、ふっくらとした手の甲と指を見て、毛糸棒を持たせてみたいと思ったのです。

「毛糸編む」という冬の季語を絵の中で実現させた楽しい句ですね。

冬の花蕨

小さき小さき垂直の冬の花蕨  髙橋 千草

「冬の花蕨」というのは冬に萌え出た蕨ではなく、フユノワラビという植物名です。ハナワラビ属のシダで、長いものは四十センチぐらいに伸びるそうですが、私が見たときはほんの十数センチで、ほっそりとしていました。夏は枯れていて、地上部が出るのは九月から三月ごろまでです。黄褐色の胞子嚢が花に似ているので「花蕨」という名になっています。

この句では小さいということと垂直ということだけを言っていますが、それだけしか言わないところが冬の花蕨の本意に適っています。冬枯れの野に、小さくすっくと立っているのですから。

健気で初々しい色をした存在でありながら、天へ向かって真っすぐに伸びている姿に作者も心惹かれたのでしょう。

藤田直子先生のプロフィールや著作については、こちらをご覧ください。

-季語でつなぐ日々

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

関連記事

第36号/夜長、鴨来る、柿

夜長 長き夜の妻の正論聞きゐたり  中村 昇平   日の入りが早くなって、夜が長く感じられる季節です。「灯火親しむ」は、長い夜に読書を楽しむという季語、「夜なべ」は仕事に精を出すという季語です。いずれ …

第16号/冬至、煤逃、龍の玉

冬至 玲瓏とわが町わたる冬至の日  深見 けん二  冬至はよく知られている二十四節気です。北半球で、正午の太陽の高度が一年中でもっとも低くなり、昼がもっとも短くなる日です。今年の冬至は12月22日です …

第25号/五月、噴水、カーネーション

五月 緑の台地わが光背をなす五月  金子 兜太      今年の2月20日、98歳で亡くなった金子兜太さんの、30代の作です。金子兜太さんは戦後の俳壇を率いてきた大きな存在でしたから、訃報はニュースに …

第11号/寒露、夜食、黄落

寒露 投網打つ男翳濃き寒露かな  竹村 完二  寒露は露が寒さで凝結して氷るようになるという意味の二十四節気ですが、実際に霜が降りるのはもう少し先です。  空気が少しひんやりと感じ始めて、空も水も透明 …

第32号/新涼、残暑、桃

新涼 新涼の母国に時計合せけり  有馬 朗人   夏に「涼し」という季語があります。暑さの中でも、朝夕の涼しさや木陰に入ったときの涼しさが嬉しいと感じるときに使われる季語です。  立秋を過ぎてからの涼 …