季語でつなぐ日々

第37号/十一月、初時雨、冬桜

投稿日:2018年11月29日 更新日:

十一月

バーバリーが闊歩十一月の街  高原 沙羅 

 バーバリーと言えば、らくだ色・赤・黒・白の直線のデザインのトレンチコートが有名です。その柄のコートを着て、11月の街を颯爽と歩いてきた人がいたのでしょう。

 立冬が過ぎると、肌寒くてコートが欲しくなりますが、オーバーコートでは早過ぎるので、トレンチコートを着ることが多いですね。まさにバーバリーの季節と言えそうです。

 バーバリーは登録商標名ですが、19世紀の半ばにイギリスのトーマス・バーバリーが考案したギャバジンという生地が始まりでした。トーマスは農民が汚れを防ぐために服の上に羽織っていた上着をヒントに、目の詰んだ綾織の、実用的な生地を発明したのです。耐久性や防水性に優れているので、軍隊のコートに採用され、パイロットの操縦服や冒険家の防寒服としても使われ、英国王室御用達になって、今のように一般に普及したそうです。

 バーバリーらしく、恰好のいい俳句ですね。

初時雨

初しぐれ尼僧は畑を打ちつづけ  馬場 ミヨ子

 時雨は初冬の頃に、急に降ってきてしばらくすると止む通り雨のことです。山が近いところに多い気象なので、関東平野ではあまり見られません。山に囲まれた京都や奈良で、遠くの山に目をやると、局所的な雨が山を渡ってゆくのを見ることもあります。古来からその情緒が好まれ、多くの詩歌に詠まれてきました。

 この句の「初しぐれ」はその冬に初めて降る時雨のことです。

 尼寺に菜園があって、尼僧が鍬を使っていたのでしょう。冬に植える野菜と言えば小松菜とかさやえんどうでしょうか。そのとき、雨が降ってきました。尼僧は時雨だからすぐに止むことを知っていて、そのまま農作業を続けたのでしょう。古都の外れの静かな初冬の風景が美しく描かれています。

冬桜

武蔵野は音をなくして冬桜  藤沢 抱一

 冬桜は4月にも咲きますが10月から12月にも咲きます。冬に咲くときは花柄がほとんどなく、一重咲きです。初めは淡い紅色を帯びていて、後に白色になります。

 冬桜には、豆桜と大島桜の交配で生まれた小葉桜、豆桜と江戸彼岸の交配で生まれた四季桜、豆桜と小彼岸桜の交配で生まれた十月桜等があります。

 見逃してしまいそうなほど小さい花ですが、寒気の中で凜と咲いています。この句は武蔵野原野の面影を残している土地で見た冬桜なのでしょう。落葉が落ち尽くし、風もなくて静かな中に、冬桜がひっそりと咲いているのです。
 雑木林の多い武蔵野の風景の中で、清らかに咲いていた冬桜に感動したことが伝わってきます。

藤田直子先生のプロフィールや著作については、こちらをご覧ください。

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