季語でつなぐ日々

第24号/穀雨、猫の子、藤の花

投稿日:2018年4月23日 更新日:

穀雨

裏木戸に穀雨の日差ありにけり  角田 独峰 

 穀雨(こくう)は穀物を育てる雨という意味で、二十四節気の一つです。2018年は4月20日でした。あまり知られていない二十四節気ですが、早苗が育つ頃、野菜の苗が育つ頃なので、雨が大地を潤して植物の生長を促してくれるという言葉に納得できます。

 この句に詠まれている裏木戸は、最近の住宅では見かけなくなりましたが、家の裏庭にある木戸のことです。表玄関に通じる門とは違って、木製の簡単な戸が多いですね。作者は庭の裏手に廻ったとき、ふと今日は穀雨だと気づいたのです。午後になると日の当たるところに裏木戸があって、日永の明るさが感じられたのでしょう。雨の後だったかもしれません。

 4月のこの頃は暑くもなく寒くもなく、外にいるのが楽しいものです。作者は裏庭での用事を思いついて精を出したのかもしれません。


福が来る家づくりのリフォーム屋さんアイ・サン・ホーム様より画像をお借りしました。
ありがとうございます。

猫の子

紙函の仔猫全てに名を与ふ  田子 慕古 
  
 猫が発情するのは1年のうちの4月から6月と、8月から10月が多いそうです。妊娠期間はおよそ2か月なので、春と秋に出産が多いことになりますが、俳句では「猫の恋」は初春、「猫の子」は晩春の季語になっています。

 猫は一度に2匹から6匹の仔を産みます。この句でもおそらく数匹、生まれたのでしょう。飼い主が知らないうちに妊娠して、お腹が大きくなってきた猫を見て、びっくりしたのかもしれません。予想外のことが起こったのです。でも親猫の傍で乳を飲んでいる掌にのるほど小さい仔猫を見ると、無事に育ってほしいと願わずにはいられません。家で全部を飼うことは難しいので、貰い手を探すのですが、先ずは名前をつけたのです。毛の色や眸の様子から、名前を付けるのは楽しいですね。名前を付けることによって、愛情も湧きます。事情はともあれ、この世に生を享けてきたことを喜びたいという優しい飼い主です。

藤の花

懸り藤年寄りかくもうつくしや  宇多 喜代子 

 懸り藤というのは、庭園の藤棚の藤の花ではなく、山や森の木々に絡みついている自生の藤のことを指します。4月末ぐらいになると崖のような所にうす紫色の藤が、まるでふわっと掛けた衣のように下がって見えることがあります。

 この句は山に藤が咲いている里の風景でしょう。里人が年を取っていて、皆で寄り添うように暮らしているのです。長くその土地に住んで、他郷に出ることも稀なのかもしれません。作者はその人たちの暮らしぶりの堅実なことや、柔和な表情や無欲な態度に接して、うつくしい老後だと思ったのでしょう。「かくもうつくしや」にその感動が表れています。年を取るのは醜くなるのではなく、人生の経験を通して豊かな表情が身に付くことではないでしょうか。

 自然のままに咲く藤の美しさのように、心の持ち方ひとつでうつくしい老後にすることができると教えられた句です。

藤田直子先生のプロフィールや著作については、こちらをご覧ください。

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