人のいとなみ・自然のいとなみ

第2号/開帳、畦塗、通草の花

投稿日:2019年4月24日 更新日:

開帳

出開帳みな野歩きの靴であり  古賀 雪江

 普段は非公開の秘仏の帳を開いて、一般の人々に拝観・結縁(けちえん)させる行事を「開帳」といいます。寺社の境内で行うものが「居(い)開帳」、余所に出張して行うものが「出(で)開帳」です。

 毎年行うところ、7年、33年、60年という周期で行うところと様々ですが、春から初夏の季節のよい時期に行われることが多いので、春の季語となっています。4~5月に数え年の7年ごと前立本尊を開帳する善光寺御開帳は有名で、本堂の前には本尊と綱で結ばれている「回向柱」が建てられ、ご本尊に直接触れるのと同じ功徳が得られると、たくさんの信者でにぎわいます。

 江戸時代には出開帳が盛んになって、信州善光寺如来、身延山の祖師(日蓮)像、成田山の不動明王、嵯峨野の釈迦如来などが江戸の諸寺院の場を借りて開帳されたので、門前市をなし、飲食店、見世物小屋が立ち並び、期間中は盛り場として大いににぎわったそうです。今は美術館、博物館の企画展などで各地の尊像を開帳することがありますが、時には数時間も行列ができるような人気で、人々の神仏に対する気持ちは変わらないようです。

 遊山に良い時季、皆で連れ立って郊外に出かけたのでしょう。ちょうどその土地で、「出開帳」を行っていました。野山の春を楽しんだ後に、めったに出会えないご本尊に出会えたうれしさ、ありがたさ。でも、足元は野歩き用の靴。少しの申し訳なさを感じつつ、拝観したのでしょう。春の一日を十分に楽しんだ様子がうかがわれます。

   しばらくは富士を仰ぎて開帳寺  まゆみ

撮影・石地 まゆみ

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甲斐善光寺の御開帳・回向柱

武蔵御岳山・酉年の蔵王権現御開帳

畦塗

塗り終へし畦踏みたくてならぬなり  ながさく 清江

 田植のための準備が始まる季節。田起こし(田を打ち返すこと)のあと、崩れた畦を直し、田んぼを取り囲んでいる土の壁を作って、割れ目や穴を防ぐ作業が畦塗です。小さなヒビ、モグラの作った穴など、前年の前のままの田んぼだと、水が漏れてしまうからです。

 畦から削った泥をドロドロにして、田鍬でしゃくり、畦の内側と上部に塗り付けていきます。大変な重労働ですが、水や肥料を染み出させないため、また畦道を強く歩きやすいようにするための、大切な作業です。

 塗り終えた畦は、きれいに均され、まだ水を含んで、ぴかぴかてらてらと光っています。もちろん、水はすぐに乾いてしまいますから、この美しい畦の姿を見られるのは、塗ったばかりの数時間です。作業をずっと見守っていた作者も、出来上がったばかりの畦の美しさに感動したのでしょう。あまりの完璧さに、「あれを踏んだらどんな感触なんだろう」と思うのは、誰しもが心に持つ気持ちかもしれませんね。人の暮らしと密着した美しさに触れた高揚感が、伝わってきます。

   まだ水といふべき照りの塗畦よ  まゆみ

撮影/石地 まゆみ

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塗り終わった畦

田鍬で泥を掬い上げて塗る

通草の花

先端は空にをどりて通草咲く  林 徹

 アケビは「通草」「木通」「山女」と様々な字が当てられます。秋の甘い実は、馴染みがふかいですね。うす紫色の存在感のある実と違って、花を見たことがない、という方が多いかもしれません。小さな花が咲くころには、新芽が出て、その鮮やかな緑色に紛れてしまうからでしょう。

 雌雄同株なので、4月から5月、雄花と雌花の形が違う花が、ひとつの枝に固まって咲きます。雌花の方が大きく、雄花は数個群がっていてやや小ぶりです。紫の小さな花は、一度見ると忘れられないほど、愛らしくやさしい花です。3枚の花びらのように見えるのは、萼なのだとか。アケビには種類が多く、三つ葉アケビの花は、濃い紫色。種類で、実の色も違うそうです。

 つる性ですから、山道を歩いていると、大きな木に巻きついて垂れているアケビをよく見ます。その中のひと枝は、くるんと空に向かって伸びていたのでしょう。その枝を見上げたら、そこにも、うす紫の花がたくさんついていました。空の青さへ向かって咲く、小さな花の姿を「踊っている」と詠んだ作者のやさしさが伝わります。

   花あけび陽を傾けて神楽笛  まゆみ

撮影・石地 まゆみ

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アケビの花・大きい方が雌花

三つ葉アケビの花は色が濃い

石地 まゆみ先生のプロフィールや著作については、こちらをご覧ください。

※写真や文章を転載される場合は、お手数ですが、お問い合わせフォームから三和書籍までご連絡ください。

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