人のいとなみ・自然のいとなみ

第16号/左義長

投稿日:

左義長

金星の生まれたてなるとんどかな  大峯 あきら

 元日一日を大正月というのに対して、一月十五日は小正月と呼ばれています。主に農家の予祝の行事が行われる日なので、繭玉、餅花を飾ったり、成木責め、鳥追い、春駒、粥占いなど、農耕に関係する行事が行われます。中でも一番知られているのが、左義長、どんど焼きでしょう。十四日の夜または十五日に、お正月の注連飾り、松飾、前年の達磨などを各家から集めて村境や広場に積み上げて焼き上げます。左義長のほか、三毬杖(さぎちょう)、どんど焼き、とんど、三九郎焼き、飾あげ、吉書揚、鬼火など、地方によって呼び名はさまざまです。

 お正月の火祭りはお盆のそれと同様に、荒々しい霊魂を追い退けるために行われたものです。平安時代すでに、十五日または十八日に、陰陽師が関与する宮廷行事として、記録が残っています。左義長の語源については諸説あって、中国で元旦に爆竹で悪鬼を追い払った行事、仏教と同郷の優劣を試み経典を焼いたときに、左に置いた仏経が燃えなかったことで「左の義長ぜり」といった、などありますが、一般的な説は、三本の毬杖(ぎちょう=毬を打つ杖)でしょう。中世には年玉として贈答していたのだそうです。それが折れたり傷んだりしたものを焼く行事があったのだそう。
 「どんど」の方は、爆竹の音、火の勢いを表す「どんど」「どんどん」といった言葉の連想からのようで、爆竹の音が大きい年は天候が良いとか、燃えた柱の倒れる方角によってその年の豊凶を占うとか、書初めを焼いてそれが高く上がるほど筆が上達する、どんどの火で焼いた団子や餅を食べると若返る、無病息災になる、という信仰がありました。「どんど」は囃し言葉でもあったようです。

 場所によっては、道祖神祭りと結びついて、子どもたちが一晩お籠りをする「道祖神小屋・左義長小屋」が作られたりします。そこで集めたお飾りなどを、翌日炊き上げたのです。「塞灯焼(さいとやき)」と呼ばれるのも「塞の神(さいのかみ)=道祖神」や火祭り行事の「柴灯(さいとう=柴の火)」に依るものかもしれません。道祖神は、外部から侵入する悪霊から村を守ってくれる、集落にとっては大切な神様なのです。いずれにしても、「火」の力によって悪を祓う、呪術的なものでした。

 今は、十五日に近い土日に行われることが多いようです。また、かつては宵に行われていたどんど焼きも、生活の都合なのか、昼間に行われることも増えてきました。ですが、火の祭はなんといっても、夜が似合います。夕闇が迫り、子どもたちも大人たちも集まってきます。見上げれば、ひときわ光り輝いている金星が見えました。宵の明星、といわれる金星を「今生まれたばかりのような光」と表現したことで、まだ真っ暗にはなっていない、夕景が見えてきます。どんど焼きの火が、金星へ向かっていくように上がります。どんどの火によって、清められた自身も、「生まれたて」のような気持ちになっているのではないでしょうか。

   森にゐて遠きどんどの音を愛づ  まゆみ

撮影/石地 まゆみ

画像をクリックすると、画像が拡大されます。

田んぼにやぐらを組む。「さいの神」の文字が見える。(町田市)

大磯の左義長は、「綱引」の習俗も含まれている。

石地 まゆみ先生のプロフィールや著作については、こちらをご覧ください。

※写真や文章を転載される場合は、お手数ですが、お問い合わせフォームから三和書籍までご連絡ください。

-人のいとなみ・自然のいとなみ

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

関連記事

第11号/重陽、蟷螂、鳥兜

重陽 一笛に夜気の澄みゆく菊の酒  林 瑞夫  陰暦9月9日は重陽(ちょうよう)、今年の陽暦では10月7日にあたります。「菊の節句」という言葉も聞いたことがあるかもしれません。  中国の陰陽思想では、 …

第4号/時の日、袋角、大山蓮華

時の日 吹き戻さるる時の日の群鷗  永方 裕子  一斉に飛び立つ鷗。風に乗って海へ…と思いきや、前に進むことをせずに戻ってきてしまいました。6月の梅雨入り前の強風に押され、進むと思っていた鷗が吹き戻さ …

第5号/御田植祭、虎鶫、菩提樹の花

御田植祭 一枚の空うすみどり御田植祭  伊藤 敬子  神社の御田(みた・おんだ)で、稲の豊作を祈念する御田植祭は、日本人と稲作との、深く長い歴史を物語る行事でしょう。各地で行われる御田植祭ですが、時期 …

第13号/神楽、薬喰、冬桜

神楽 神楽てふ一夜の舟に乗り合はす  遠藤 由樹子  季語の「神楽」には、宮中で12月に行われる「御神楽」「庭燎(にわび=神楽の際に焚く篝火)」と、民間で行われる「里神楽」「夜神楽」といったものがあり …

第12号/神嘗祭、鎌祝い、烏瓜

神嘗祭 神嘗祭勅使の纓(えい)の揺れて行き  坂井 建  令和の御代替わりの「即位礼」「大嘗祭(だいじょうさい)」と一連の儀式が、無事に執り行われました。これらについてはニュースでも大々的に報道され、 …