季語でつなぐ日々

第12号/霜降、秋曇、紅葉

投稿日:2017年10月24日 更新日:

霜降

霜降やスリッパ厚く厨事  井沢 正江

 霜降(そうこう)は文字通り、霜が降りはじめるという意味の二十四節気です。今年は10月23日に当たります。秋がいよいよ深くなって、大気が澄み、野山の紅葉も濃くなってきました。家の中にいても朝晩は冷え込み、暖房を入れたくなる頃です。

 この句の最後の「厨事」は「くりやごと」と読み、台所仕事という意味です。台所のフローリングは夏に素足で踏んでいたときは心地よかったのですが、涼しくなってからは靴下を穿いていました。ところが晩秋になって、足元から冷えが上ってくるようになり、厚手のスリッパを履いたというのです。

 そんな季節になったなと思って庭を見ると霜が降りていた。そういえば二十四節気の霜降だと、あとから気づいたのかもしれません。

 二十四節気を意識することで、来たるべき季節への心構えもできるようです。

 冬はもうそこまで来ています。


 
秋曇

次の矢を引くまで長し秋曇  寺島 ただし

 大きな神社や広い公園などを散策していると、弓道場があって、弓矢を引いている様子を見学できる場合があります。姿勢の良い袴姿で、礼儀正しい所作の中で行なわれる弓道を見ると、こちらの心も清々しい気持ちになってきます。

 この句の季語は秋曇なので、秋晴の下の爽快感はありませんが、却って、粛々と進められている弓道をじっくりと眺めることになったのでしょう。

 「矢を射るまでの動作に決まった型があるらしく、精神統一の時間だろうか、待つと長い」と作者がこの句を解説しています。確かに、矢を弓につがえてから射るまで、たっぷり時間をかけていますね。集中力を高めているのでしょう。

 現代は何事も短時間で進められるのが美徳のようになっていますが、ときには一つの事に充分な時間をかけてみたいものです。拙速を反省しなければと思わせてくれる句でした。

紅葉

恋ともちがふ紅葉の岸をともにして  飯島 晴子

 「恋」で始まっていますが、「ともちがふ」と続くので、読者としては少し残念です。紅葉の美しい川岸に沿って歩き、水面に映る紅葉や、そこに散り込む紅葉を見つめている二人。いったいどのような関係なのでしょう。恋にはならないけれど、相手を異性として意識しているのでしょうか。尊敬が思慕に変わりつつあるのでしょうか。微妙な気持ちを抱いている時期というのもなかなかいいものですね。

 紅葉は古来から詩歌に詠まれてきた伝統的な季語です。楓や桜や漆など、美しい紅葉は秋を華やかに彩ります。さらに、やがて散ってゆく寂しさも含まれるので趣が深いのです。日本では四季の主な風物として雪、月、花、時鳥、そして紅葉が「五箇の景物」と呼ばれています。

 その伝統的な季語を、この作者はさらりと躱して、新鮮な詩情を生み出しました。「岸をともにして」という表現が対等の男女であることも匂わせ、いかにも現代的な紅葉の句になっています。

藤田直子先生のプロフィールや著作については、こちらをご覧ください。

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