人のいとなみ・自然のいとなみ

第12号/神嘗祭、鎌祝い、烏瓜

投稿日:2019年11月21日 更新日:

神嘗祭

神嘗祭勅使の纓(えい)の揺れて行き  坂井 建

 令和の御代替わりの「即位礼」「大嘗祭(だいじょうさい)」と一連の儀式が、無事に執り行われました。これらについてはニュースでも大々的に報道され、どのような行事かは皆さまも見聞きされていると思います。
 14日、15日に行われた「大嘗祭」は即位後、一代一度、初めての「新嘗祭(しんじょうさい・にいなめさい)」である、との説明もお聞きになったことでしょう。では、新嘗祭とはどのような神事なのでしょうか。これは、毎年、11月23日に行われ、天皇が神前に新穀(その年に収穫された穀物)をお供えし、収穫をお祝いし感謝をささげ、国の平安を祈り、さらに神とともに食事をとる祭で、現在は「勤労感謝の日」として国民の祝日になっています。その祭を即位後に初めて執り行うのが大嘗祭なのです。

 ではなぜ、今回大嘗祭は23日ではなく14日、15日に行われたのでしょうか。これは、もともと新嘗祭は11月の中の卯の日に行われたことによります。今年は14日が乙卯(きのとう)にあたるので、大嘗祭はこの日に行われたのです。暗闇の中、かがり火と松明の明りだけで「悠紀殿(ゆきでん)」「主基殿(すきでん)」で行われる厳かで静謐な模様は、一部でしたが報道されました。平成の御代替わりの際には、内陣の「寝座」は、天孫降臨の際、ニニギノミコトが真床追衾(まどこおぶすま)に包まれて降臨した、という故事が反映されているのかとか、天皇がそこに寝て「天皇霊」を身に着けるのだ、とかさまざまな議論が起こりましたが、宮内庁は「天皇が寝座に触れることは無い」と明言し、今回はあまり議論が起きなかったようです。それにしても、寒い中の長い長い儀式には、びっくりしますね。例年の新嘗祭は、宮中のほか、各地の神社でも執り行われますから、お参りしてみるのもいいかもしれません。
 なお、大嘗祭が行われた大嘗宮は、12月8日まで一般公開、また即位礼の際の高御座は、12月以降、東京国立博物館と京都御所で公開されます。御代替わりだけの公開ですから、ぜひ、見に行かれたら、と思います。

大嘗祭関係の書籍。三和書籍刊。

 さて、「嘗」の字の由来は諸説ありますがここでは省くことにして、大嘗祭、新嘗祭以外にも、この字を使った祭事があります。それが、今回取り上げる「神嘗祭(かんなめさい)」です。こちらは、その年に収穫された新穀を、最初に伊勢神宮(正式名称は「神宮」)にお供えする祭儀です。かつては9月に行われていましたが、現在は10月15日、16日に、外宮・内宮それぞれで行われています。夜中に「大御饌(おおみけ=神様のお食事)」が捧げられますが、こちらは奉拝することはできません。昼間に行われる「奉幣の儀」には、天皇陛下からの勅使が、「幣帛(へいはく)」という五色の布や織物などをご奉納される儀式があり、こちらはその姿を拝見することが出来ます。
 神宮ではこの日、御正殿を囲む内玉垣に「懸税(かけちから)」と呼ばれる、全国から寄せられた稲の束が、ずらりと懸けられます。古くは「豊葦原瑞穂国(とよあしはらのみずほのくに)」と呼ばれた日本が、みずみずしい稲穂の稔る国である、ということを感じる行事です。つまり、神嘗祭とは、命の糧である稲の稔りに感謝する、収穫の最初の行事なのです。

 この句の「纓(えい)」とは、冠の後ろに垂らす、細長いリボンのようなもの。先に書いた、奉幣の儀の行列の風景でしょう。列の最初には、皇室からの奉納品が入った「唐櫃(からびつ)」、その後ろに勅使、伊勢の祭主(現在は黒田清子さん)始め、大勢の白装束の神官が列を作り御正宮に向かわれる姿は、厳かで息をのむようです。玉砂利を踏む音のみの静謐な列の中で、勅使の黒い「纓」だけが動き、揺れながら、過ぎていきます。絵巻さながらの景に、作者も感動したことでしょう。こちらも毎年行われる祭儀なので、一度行ってみてはいかがでしょうか。

   八開手(やひらで)に雲の割れたる神嘗祭  まゆみ

撮影/石地 まゆみ

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神嘗祭・奉幣の儀。先頭を天皇からの幣帛を入れた唐櫃、その後ろの黒い装束の方が勅使で、被っている冠の後ろに纓が垂れる。緋袴は清子祭主。外宮にて。
神宮では、最初に外宮(豊受大神宮=天照大御神の食事を司る)をお参りし、
その後、内宮(皇大神宮=皇室の祖神、天照大御神を祀る)をお参りするのが習わしです。
今回、即位の儀式が済んだことの報告に天皇皇后両陛下が神宮に参拝する際も、外宮からお参りされている。


懸税(かけちから)と呼ばれる稲穂。内宮の荒祭宮にて。御正宮の垣には、数えきれないほどの懸税が掛けられているが、もちろん、撮影は禁止。

「初穂曳」とういう行事。お初穂を神宮に奉納する。20年に一度の式年遷宮行事を伝えるために昭和47年から毎年行われている。写真は内宮への初穂曳で、五十鈴川を船で曳く。

鎌祝い

鶏小屋を鶏出はらひし鎌祝  草深 昌子

 先の神嘗祭、新嘗祭は、皇室や神社での行事でした。民間でも、秋の収穫をお祝いする行事が行われます。それが、「鎌祝い」です。農家にとって、稲を刈り上げるということは大変な作業ですし、また、大きな喜びでもあります。刈入れの済んだ後、きれいに磨いた鎌に感謝し供養するために、床の間などに飾って、餅や赤飯を供えます。収穫祭でもあり慰労会でもあります。

 農耕が終わった後の行事は、この「鎌祝い」のほか、「刈上げ」「鎌納め」「秋収め」と呼ばれるもの、また「十日夜(とおかんや)」(稲刈りが終わって田の神が山に帰るとしてお祭りをする。東日本で行われる)、「亥の子(いのこ)」(新穀でつくった亥子餅を祝う収穫祭。おもに西日本で行われる)など、地方によって、行う時期、呼び名、方法が違います。
 基本的には、脱穀や籾摺りなど、作業がすべて済んでからではなく、先だって行うところが多いようで、神嘗祭の「懸税」のように、一部の初穂を懸けて行うところもあるようです。また、脱穀も終わると、「扱き上げ」という祝いをするところもあります。

 刈入れが終わり、喜びと安堵の収穫祭。作業を手伝ってくれた方々も呼び、お祝いをしています。収穫までは、鶏小屋も開放しなかったのでしょう。今日は、小屋も開け、鶏たちも自由に秋空の下に放たれています。うれしそうな鶏たちの姿を見るのは、収穫にかかわったすべての人たちの喜びに重なります。秋の明るい陽射しの見えてくるような句です。

   軒深く雨となりたる鎌祝い  まゆみ

撮影/石地 まゆみ

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刈入れには、子どもたちも駆り出される。

こちらは「刈上げ祭」で、初穂と赤飯を供える。(日本民家園にて)

「扱き上げ」には餅が供えられる。右は古い稲扱きの道具で「千歯式稲扱器」。(日本民家園にて)

烏瓜

血の通ふまで烏瓜持ち歩く  篠崎 央子

 道端でも良く見かける烏瓜。蕭条と枯れ始めた木々の中で、いつまでも朱を灯す烏瓜は、冷え切った中での、ほっとする温かさを感じるものですね。ウリ科のつる性の植物で、花は8月ごろ、縁にレースのような糸状のものを付けた、白い不思議な形の花を咲かせます。夕方に開き、朝にはしぼんでしまうのですが、暗闇の中でその白さは魅惑的です。実は、初めは緑色で目立たないのですが、熟れていくと、俄然、その姿を主張していきます。

 名前の由来は、烏の好物だから、とか、色や形が唐墨(からすみ=朱墨)に似ているから、と言われています。また「玉章(たまずさ)」という別名もありますが、これは種の形が結び文にも似ているので付けられた名前だそうです。そこから「よき便り」という花言葉を持っているのだとか。実は根の塊のでんぷんは、生薬や天瓜粉(てんかふん)に使われていたそうです。

 山道を歩いていて、目に留まった烏瓜の実をもいだ作者。朱くてころころした手触りながら、晩秋の空気の中で、実も冷え切っています。なんだか手放せなくなってしまった、と、歩くお供に烏瓜をずっと、にぎっています。自分の体温が烏瓜に伝わって、だんだん実も温みを持ってきました。まるで烏瓜の実自体も体温を持っているような。「血の通ふまで」という言葉には、実までを生き物のように捉え、さらにそう思うまでの時間が、豊かに表現されています。

   烏瓜引いてきのふが付いてくる  まゆみ

撮影/石地 まゆみ

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花は夏の終わりに咲く。レースのように開いた花は美しい。

実が若い頃は緑色で、うり坊のような縞が見える。

鮮やかな朱色が目を引く。

石地 まゆみ先生のプロフィールや著作については、こちらをご覧ください。

※写真や文章を転載される場合は、お手数ですが、お問い合わせフォームから三和書籍までご連絡ください。

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