爽やか
さわやかにおのが濁りをぬけし鯉 皆吉 爽雨
「爽やか」が季語だと聞くと、意外に思うかもしれません。「爽やかな笑顔」「爽やかな青年」等と、さっぱりとして清々しい様子に使われる言葉だからです。でも俳句では連歌の時代から秋の季語として扱われてきました。秋になり、大気が澄み、からっとした湿度の低い日はほんとうに快適ですね。それを表した季語で、「爽気」「さやか」とも言い換えられます。
この句では、池の鯉の動きが詠まれています。水底にいる鯉が動くと底の砂が動くので辺りの水が濁ります。その濁った水を抜け出して鯉が水面のほうに浮いてきたのでしょう。目に見えるようです。
けれど、それを単に写実的に表現したのではなく、水の濁りを鯉の「おのが濁り」と受け止めました。さらに「さわやかに」の季語によって、自分で自分を浄化する行為は「さわやか」であることも示唆しています。難しい言葉は使っていませんが、鯉に託した作者の深い心が伝わってきます。
良夜
下駄履きで酒買ひに出て良夜かな 牛田 修嗣
陰暦の8月15日、すなわち中秋の名月の夜を、俳句では「良夜」と言います。2018年は9月24日でした。曇りがちな日でしたが、雲が切れて美しい月が見えたときは感動しましたね。
掲出句は、満月の美しさに気づき、この月を肴にお酒を飲もうと思った作者が酒屋に行くという場面です。最近の人は下駄を履くことが少ないですし、お酒はコンビニで買うのかもしれません。でも、下駄を履いて歩くときの音に、心の弾みが表われています。「酒買ひに」という少しぶっきら棒な言い方にも味わいがあります。
今となっては懐かしいような時代を感じさせる句ですが、作者は49歳。現代男性もときどきは旧いタイプの男を気取ってみたいのです。
男着物の加藤商店様のサイトより画像をお借りしました。
ありがとうございます。
草の絮
朗らかな神さま草の絮飛ばす 正木 ゆう子
「草の絮(わた)」は草の穂がほおけて綿状になったものです。
イネ科の猫じゃらしや蘆や荻、カヤツリグサ科の菅等は穂状に密集して小さな花を付け、やがて実となり、ほおけて綿状になって種を飛ばします。それが「草の絮」です。
川のそばを歩いていると蘆の穂絮が、湿原では綿菅の穂絮がふわっと飛んでいるのを見かけることがあります。この句はたくさんの絮が飛んでいく中に立っていた作者が何と美しい光景だろうと感激して、神さまを讃えたくなったのです。まるで夢のような気分だったのではないでしょうか。草の絮は風に任せてどこまでも飛んで行き、そこで地に着いて発芽するのです。その生命力をくださった神さまの御心が明朗だと捉えて自然を讃えています。