季語でつなぐ日々

第15号/大雪、鴨鍋、枯蓮

投稿日:2017年12月8日 更新日:

大雪

大雪や束なす朝日畑を射る  菅野 トモ子

 大雪は二十四節気の一つで、「たいせつ」と読みます。「おおゆき」と読むと大量の降雪の意味になってしまいます。

 今年の大雪は12月7日。山間部だけでなく、平野にも雪が降る頃、それほどの寒さが訪れる頃という意味です。

 この句では、冬の朝に日が強く射していることを言っています。「束なす」と表現されているので、雲が割れて朝日が地上に射し込んでいるのが目に見えたのでしょう。天候が変わるときに、そのような神々しい光景を目にすることがありますね。薄明光線、光芒、天使の梯子とも呼ばれています。

 束なす光が注がれていた畑には白菜、葱、小松菜などの野菜が青青と育っていたことでしょう。

 雪が降りそうな寒気のなか、貴重な日差しの恩恵を享けているのは人間も同じです。大雪という堂々とした季語で、自然界の雄大さも想像させています。

鴨鍋

鴨鍋を食ふ天井に終電車  田沢 健次郎 

 寄鍋、鋤焼、鮟鱇鍋は冬の生活の季語ですが、そこに鴨鍋は入っていません。でも鴨が冬の動物の季語なので、鴨鍋も季語として扱われています。

 鴨鍋というと高級料理のイメージですが、最近では手軽に食べさせるお店もありますね。この句はガード下の鴨鍋屋です。気の合った仲間と鴨鍋に舌鼓を打っているうちに、いつの間にか夜が更けて、席を立つチャンスを逃したのでしょう。ふと気づくと天井に最終電車の音が遠ざかって行ってしまいました。

 さきほどまで電車の音が聞こえていたお店の中が急に静かになって、鴨鍋も冷めてきました。今夜はこれからどうするのか、明日の仕事は大丈夫か、などと思い巡らしても後の祭。いささかの後悔が過るのですが、美味しかった鴨鍋に免じて、今夜は羽目を外した己を許そうと思ったのかもしれません。

 忘年会シーズンの一夜が面白く描かれています。

枯蓮

枯蓮のうごく時きてみなうごく  西東 三鬼  

 夏に紅色や白色の見事な花を咲かせていた蓮池でしたが、秋になって葉が枯れ、実を飛ばし切って、いまは枯れた茎が水に刺さったように立ち、朽ちた葉が水に浸かっている冬の光景です。

 俳句ではこの無残とも言えるような光景も、大いに味わって楽しみます。「枯蓮」は魅力のある句材です。名句はたくさんありますが、その中でも最も有名な句がこの西東三鬼の句です。

 枯れ切って、まるで無機物のようになっていた枯蓮の池にひとたび風が来ると、それに応じて一部の茎や葉が少し動き、その動きが他の茎にも伝わって、ついには池全体が動いたというのです。この発見に驚かされますが、作者は長い時間、枯蓮を見つめていた挙句に得た発見だったそうです。「吹かれる」「揺れる」ではなく、「うごく」の表現によって、写生が完成しました。人生を枯蓮に象徴させて詠んだ句もさまざありますが、写実に徹して詠まれたこの句に惹かれる人が多いようです。

藤田直子先生のプロフィールや著作については、こちらをご覧ください。

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