人工知能が特許を出願した日!

人工知能が特許を出願した日!(第5回)

投稿日:2017年8月7日 更新日:

2030年、人類の選択(その2)

■弁護士と私立探偵

ところで、ロボットはどんな仕事をするのだろうか。

よく聞かれるところでは、トラックの運転手や建設業、いろいろな製品や商品を作っている工場や3K職場と言われているところなどだが、これら以外にもすべての職業や職種に及んでくると言われている。

では、弁護士とか検事や裁判官の仕事はとても人間的な仕事で、ロボットではできない職種なのだろうか。これらの職業は、事件に対して法律とこれまでの判決の中からどれに適合するかを導き出すことにある。決められたルールの中での違いを比較することは、コンピュータの最も得意とするところだ。

さらに具体的に説明しよう。

ある事件が起きたとして、過去の事例と裁判の判例との比較は人工知能が行うことになる。最後の判断、判決は人工知能でもできるのだが、生身の人間の陪審員や裁判官が行う方が人間味を感じるだろう。

では、警察官や探偵ならどうだろうか。

捜査する機器や道具は飛躍的に発達する。そうなると、いい意味でも悪い意味でも監視社会になり、必然的に警察官も少人数でいいことになる。

フィリップ・K・ディック原作、スティーブン・スピルバーグ監督の『マイノリティ・リポート』(2002年公開)という映画がある。遠くない将来、監視装置が飛躍的に進み、犯罪が起きる前に犯人を逮捕するという内容だった。ディックはこうした介入を『前犯罪』検知と呼んだ。

そして、今、世界中でテロ防止という名目で『前犯罪』検知が行われようとしている。これも人工知能化が進む時代の大きな流れなのだろうか。

このように検事も弁護士も、裁判官という職業も過去のものになっていくのだろうか、それともいかなる時代、どのような環境の変化があっても人間は罪深いのもなのだろうか。

石川五右衛門曰く、
――石川や浜の真砂は尽きるとも世に盗人の種は尽きまじ……、なのか。

そうではあるのだが、変わらないものがある。それは、ヒトへの憎しみや嫉み、そして嫉妬だ。

人の心や気持ちは、20年や30年ではなんら変わることがない。それどころか、この数千年の間、なんにも変わっていない。嫉妬する妻に代わって夫の浮気を調査する私立探偵は、ロボットじゃなくてヒトがやり続ける職業の一つかもしれない。

寓話的な話になってしまったが、弁護士や警察官といえども失職する時代が目の前に迫っているのだ。

■弁理士と審査官

弁理士とは、発明者から発明がなされ、それを特許庁に認めてもらうための書類(これを特許明細書といい、提出書類を特許願と称する)を作成する職業であり、厳しい国家試験に合格した人たちだ。2014年は、10680人が弁理士として登録されている。

審査官は弁理士から提出された特許願を審査する国の役人で、2015年は1702人の人が就業されている。

高だか1万数千人と限られた人数であり、特殊な職種といえる。

こういった特殊な職業においても、人工知能が発達するとどうなるだろうか。

特許明細書は決められた書式に則って記載される。そして、これまでに関連する技術の特許文献や学術文献の多くはすでにデジタル化され、ビッグデータ化されている。

弁理士はこれらの文章化されたデータを活用し、発明者から新たに提案された発明を文章化する。新しい発明を過去のデータと比較することは、人工知能の得意とするところだ。

特許庁の審査官は、過去に似たような発明はないのか、特許明細書の記載は正しいかなどを比較検討する。過去のものと比較検討するこれらの作業は人工知能が得意とするところだ。

事実、2017年において初歩的な段階ではあるが、すでに人工知能化が進みつつある。

そして、2030年には弁理士や審査官の多くの作業は、人工知能が肩代わりすることになるのだろう。

■消える職業と生まれる職業

人工知能が発達すると大きな産業や特殊な職種においてもいろんな角度から影響が出てくる。

いま話題の人工知能を搭載した無人タクシーや無人トラックが普及すると、これまでの運転手(タクシー従業員数37万人、トラック177万人)の多くが失業すると言われている。他にもいろんな職業従事者が、人工知能やそれを搭載したロボットに取って代わられることになる。


※英オックスフォード大学、マイケル・A・オズボーン准教授の論文「未来の雇用」で示された職種から抜粋(注2)

なくなる職業に関していくつかの本や新聞、ネット情報などで指摘されているが共通する職業として、電車の運転士(4万人)、通訳・速記、レジ係などは人工知能化が進んでいくと無くなる。新聞や郵便配達人、訪問販売員、コールセンターにプログラマー。それと農家や漁師。検査官に兵士。大工にロボットの製造者などだ。要するに全ての職業分野で大きな影響が出てくる。各自がそれぞれの立場で生き残りを図るか、新たに生まれてくる職業に転職を考えなければならない。

本当にそのようなことになるのだろうか。今の日本の労働者不足の状況を見ているとちょっと信じられないと思うかもしれない……。

他の職種でもそうだが、農家や漁師がなくなるといっても、すべての人がいなくなるわけじゃない。将来においても付加価値を提供できる人は必ずいるはずだし、長期的には食糧不足が懸念されているのだ。

それでは、人工知能ができることで誕生する新しい職業には、どういったものがあるのだろうか。

それは、ロボットエンジニア、ロボットデザイナー、ロボット修理工、ロボットセラピスト、ロボットのトレーナー、ロボットのファッションデザイナーなどが有力だといわれている……。

これではまるで、ロボットのペットショップみたいなものばかりだ。

現実の問題として、仕事を奪われたり、付加価値を高められなかった人たちはこれからどうやって生活するのだろうか……。

■限界費用ゼロ社会の出現

でも悪いことばかりではない。先ほど話題になった無人タクシーだけど、料金はいくらくらいになるだろうか。

無人タクシーにするために、そのための装備が必要だからクルマの単価は高くなる。しかし、人件費がかからなくなる……。

開発者の意見やネット、新聞などの記事から、今の10分の1になるとか、つい最近の情報では無料という話も出てきている。

これだけ安くなると個人でクルマを所有する必要がなくなり、普通の人はクルマを持とうなんて考える人はほとんどいなくなる。クルマを持つこと自体が大変なコスト高になるからだ。クルマが必要なら、スマホか体に付けたウエアラブル端末からタクシーを呼ぶと、玄関先にすっと希望のクルマが横付けされる。クルマ同士が情報ネットワークでつながっているので、事故や渋滞はおきない。行き先を告げればたちどころに送り届けてくれる。しかも運転しないからストレスも感じない。しばしの間、寝ていても、本を読んでいても、おしゃべりをしていてもかまわない。

人工知能が発達するとすべてのコストが5分の1から20分の1になるそうだ。アメリカのクリス・アンダーソン氏はこういう状況を『限界費用がゼロ』(注3)になると主張し、話題をさらった。

人工知能が発達し、第四次産業革命が進むと収入は減るが、生活費はぐんと安くなる。

しかも労働時間は、今の半分以下になる。多くの時間は好きなことに費やせる。子育てにも専念でき、時間に追われることもない。余力があれば副業をやってもいい。

そういう未来になるなら、まったく悪くない。

しかし、働く時間が半分になると言って喜んでいられない。やっとローマ時代の奴隷と同じレベルになるのだ。

日本の古代学者で、縄文人の労働時間を割り出した先生がいる。この先生の説では、縄文人の労働時間は3、4時間だったらしい。(注5)(注6)(注7)

彼ら、彼女らは残った時間に何をしていたのだろうか。

女は子供を育て、一緒に遊んだり、料理をしたり、服やお気に入りのニワトコ酒を作ったりしていた。年寄りや体が不自由な人は漆を採取し、粘土をこねて土器や土偶を作っていたかもしれない。

元気な男は獣の狩猟や魚釣り、海に潜ってエビやタコをつかみ、女と子どもは海岸でアサリやハマグリ、サザエなどの貝獲りをする。そして、藻塩を作りながら浜で海賊焼きにして、男も女もニワトコ酒で一杯やりながら日がなおしゃべりを楽しんでいたのだろうか。

これが本来の人間の姿だとすると、人工知能の発達が、より人間らしさを取り戻すきっかけになるかもしれない。

人間の本来の姿とはどういうものなのか、人間を人間たらしめるのはいったい何なのだろうか。ケヴィン・ケリー氏は次のように言う。(注4)
――人工知能の到来の最大の恩恵は、それは人間性を定義することを手助けしてくれることだ。われわれは自分が何者であるかを知るために人工知能が必要なのだ――

そうなると本当にいいのだが、天才理論物理学者のスティーヴン・ウィリアム・ホーキング博士は人工知能の開発に対して、「完全な人工知能が開発できたら、それは人類の終焉を意味するかもしれない」、と警告している。

さらにホーキング博士は続ける。
「人工知能が自分の意思をもって自立し、そしてさらに人間の能力では及ばない、これまでにないような早さで能力を向上させ、自分自身を設計しなおすこともあり得る。ゆっくりとしか進化できない人間に勝ち目はない。いずれは人工知能に取って代わられるだろう」。

本当にそのようなことになったら、SF映画と同じになる。お先真っ暗だ。そんな世界になるんだったら人工知能の研究はやめるべきだ。

さらにホーキング博士は、ノーベル物理学賞受賞者でMIT(マサチューセッツ工科大学)のフランク・ウィルチェック教授、人工知能研究者でカリフォルニア大学バークレー校のスチュアート・ラッセル教授ら4人は連名で、2014年5月のイギリスの新聞「インデペンデント」紙に、「人工知能に潜む危険性をわれわれは見逃してはいないか?」と題した記事を掲載した。

――人工知能を創造することは、人類史上最大の偉業となるだろう。それは戦争、飢饉、貧困といったきわめて困難な問題を解決してくれるかもしれない。しかし、その一方でそれがもたらすリスクを回避する手段を講じなければ、人工知能は人類が成し遂げた最後の偉業になってしまう危険性がある――

スペースX社とテスラモーターズのCEOのイーロン・マスク氏は、
「人工知能にはかなり慎重に取り組む必要がある。結果的に悪魔を呼び出していることになるからだ。ペンタグラムと聖水を手にした少年が悪魔に立ち向かう話を皆さんもご存知だろう。彼は必ず悪魔を支配できると思っているが、結局できはしないのだ」。

確かにそうかもしれないと思ってしまう。

囲碁の世界チャンピオンを倒したアルファ碁。それを作ったディープマインド社の共同創業者の一人のシェーン・レッグ氏、はQ&Aサイト「Less Wrong」のインタビューで次のように答えている。

――最終的に、人類はテクノロジーによって絶滅するだろう。……今世紀におけるその最大の危険要因は人工知能だ――

だから社内に人工知能倫理委員会を設ける必要性を説いている。因みに日本でも、2014年に倫理委員会が設立されている。

また、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏も、「わたしも人工知能に懸念をいだく側にいる一人だ」、と人工知能脅威論に賛同している。

錚々たるメンバーが、反対もしくは強い懸念をいだいているのは事実だ。

しかし、その一方で、賛成する人たちがいる。その人たちの意見も聞いてみよう。

最初にあげなければならない人物は、発明家で未来学者でもある御歳69歳になるレイ・カーツワイル氏だ。彼は、
――シンギュラリティに達すれば、われわれの生物的な身体と脳が抱える限界を超えることが可能となり、運命を超えた力を手に入れることになる――
と、ばら色の未来を想像し、その時期は「2045年に到来する」と予言した。

カーツワイル氏の説によると、あと30年を待たずに人類はギリシャ神話の全知全能の神、ゼウスの力を持つことになるという。この30年という時間を長いと見るか、短いと感じるかにより、その後の世界観はがらりと変わる。

アレン人工知能研究所のオレン・エツィオーニCEOは、
「わたしは人工知能を恐れていませんし、みなさんも恐れる必要はありません」と断言し、
「例えば、100万年後、特異点(シンギュラリティ)を迎える可能性はあります。けれど賢いコンピュータが世界を制覇するという終末論的構想は『馬鹿げている』としか申し上げようがありません。……文字を読み、理解できるプログラムはどんどん進化しているが、そのプログラムがどこかにかってに走り出してしまう危険性はまったくないだろう」(注1)
と、締めくくっています。

[コラム 5]

昨年(2016年)の3月に、囲碁界に電撃が走った。

世界トップ棋士の一人、韓国の李 世乭(イ セドル)九段が、グーグル傘下のディープマインド社が開発した人工知能を搭載したゲームソフト『アルファ碁』との5番勝負に1勝4敗で敗れた。これまでの囲碁ソフトは、最強のものでもアマチュアの初級程度といわれていた。それに対してディープ・ニューラル・ネットワークを使ってコンピュータ自身がディープ・ラーニング(深層学習)を重ねることにより、世界チャンピオンを一気に負かすソフトに成長したのだ。この時までは世界チャンピオンを倒すほどの囲碁ソフトの開発は、10年以上先のことと考えられていたからだ。

また日本でも同じ月に、公立はこだて未来大学の松原仁教授らは星新一賞(日本経済新聞社主催)に短編小説を4作応募し、一部は一次審査を通ったと発表した。これは、人工知能でできた小説創作ソフト『きまぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ』を開発するその中間発表としてのチャレンジだったそうだ。

奇しくも同じ月の公表であり、それぞれの関係者だけでなく一般のわれわれにも驚きをもって耳目を集めた。

そして、これらの成果はこれまでの人工知能開発スケジュールを一気に短縮させることになる。

韓国の朴 槿恵(パク クネ)大統領(2016年当時)は李 世乭九段が「アルファ碁」に負けたことで次のようなコメントを発表した。

「韓国社会が今回の『アルファ碁ショック』をきっかけに、遅れをとる前に人工知能開発の重要性について大きな警戒心と刺激を受けたことは、逆説的に非常に幸運だったと思う」

さらに朴大統領は、
「今は誰がいかに早く革新的技術を開発するかにより、一国の競争力が左右される時代だ。私たちも競争力を確保するためには、国家研究・開発システムの根本的革新が必要だ。研究・開発投資の生産性を画期的に高めるため、大統領が主宰する科学技術戦略会議を新設する」
との声明を出し、知能情報技術研究所を設立し、1兆ウォン(約931億円)の拠出を表明した。

それに対する日本政府の動きはどうだろうか。2016年1月に政府は、「第5期科学技術基本計画」を閣議決定し、公表した。この中でインターネット、人工知能、ロボット技術などを高度に組み合わせた社会・経済の変革と題し、「Society 5.0」の取り組みを本格化しなければならないと提言した。この組織は安倍首相をトップとし、各省庁、産業界を連携させるものだそうだ。

ドイツでは韓国や日本に先駆けて2014年に、「インダストリー4.0」が発表されている。ドイツの思惑は製造業の革新にあるのに対して、「Society 5.0」は産業と社会、一般生活を含めた技術革新を打ち出したことが特徴で、産業の生産性向上や新産業創出と、少子高齢化などの社会的幾多の難問を同時に解決することを目的にしている。

人工知能は指数関数的に発達することはほぼ約束されている。人工知能研究者は手持ちの人工知能を使いこなし、最新鋭の人工知能を開発するだろう。また、2030年には雑誌「Nature」に人工知能だけによる人工知能開発記事が載るだろうと予想されている。人類の素晴らしい能力の成果ともいえるが、怖い話ともいえる。さらに便利になり機能化され、生産性が飛躍的に向上した世界が出現しているのである。

ところがこの行き過ぎた生産性の向上が、今後の大きな問題になるのだが……。

参考文献

(注1)シンギュラリティは近い[エッセンス版] 人類が生命を超越するとき レイ・カーツワイル著、NHK出版編集 NHK出版 2016年
(注2)オックスフォード大学が認定 あと10年で「消える職業」「なくなる仕事」 マイケル・A・オズボーン 週刊現代 2014年11月8日
 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/40925
(注3)インテリジェント化が加速する ICT の未来像に関する研究会 報告書 2015 平成27年6月
 http://www.soumu.go.jp/main_content/000363712.pdf
(注4)〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則 ケヴィン・ケリー著、服部 桂 著・翻訳 NHK出版 2016年
(注5)三内丸山は語る―縄文社会の再検証 久慈力著 新泉社 2000年
(注6)三内丸山の世界 岡田康博、小山修三共編著 山川出版社 1996年
(注7)サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福 ユヴァル・ノア・ハラリ著、柴田裕之訳 河出書房新社 2016年

工学博士 黒川 正弘

黒川正弘先生のプロフィールや著作については、こちらをご覧ください。

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