人工知能が特許を出願した日!

人工知能が特許を出願した日!(あとがき)

投稿日:2017年12月7日 更新日:

強力な人工知能の出現による第四次産業革命は、これまでの第一次、第二次、および第三次産業革命とは根本的に様相が違っていることを承知しておかなければならない。

第一次から第三次までの変革は、道具もしくはモノが前の変革期のモノより省エネルギーで、かつ少資源で製品化され、しかも以前のモノよりさらに高機能化されている。その上、その製品は短時間で製造されることにより、『モノの生産効率』は飛躍的に向上した。

それと、第三次産業革命までは革命と革命との間が千年ないし百年という長い期間があり、人びとの心も体も、そして社会制度も、多少の混乱を伴いつつもその変革に対して再組織化し、人も対応することができていた。

ところが、第四次産業革命は、『人間の知能』を飛躍的に向上させた人工知能による変革であり、これまでの産業革命とはまったく異質なものであると同時に、第三次から第四次産業革命に移行する時間が20数年とあまりにも短いことにある。

人工知能の発達による第四次産業革命はこれまでとは全く異質な2つの問題点が存する。

1つは、技術の発展があまりにも早いため、人びとが新しい産業に対応するための必要なスキルが足らず、追いついていないということだ。その結果として、新しく生まれた企業に労働者が不足しているにもかかわらず、就職することが難しい。

2つ目は、新事業を立ち上げた新進気鋭の企業においても、事業が発展する中で新人を採用するのではなく、生産効率をさらに向上させるために生産過程にIoTや各種のロボットを導入することだ。これらの新事業主たちは、IoTやロボットの使用に長けている人たちであるから、ヒトを採用しないことに何の躊躇(ためら)いも疑問も感じることはない。

そして、第三次産業革命には、このような状況がすでに始まりつつあったのだ。

第四次産業革命は誤解を恐れずに記すならば、われわれホモサピエンスが誕生して以来20万年の間、これまでに努力し構築してきた知識や知能、修練してきた技能の全てを手放すことを強いられているのである(もちろん一部の天才や芸術家、技能の熟達者は除かれるのだが)。20万年もの間、延々と構築してきたさまざまな知識と技能をだ。

これまでの知識と技能を手放すという行為は、生命誕生以来これまでに築いてきたDNAの習性と真っ向から対立することになるのではないだろうか。 

しかも、ホモサピエンスが数多の自然現象を発見し、法律や哲学、宗教を含め、いろいろなモノを発明するという習いから、人類の最大かつ最高の発明となるかもしれない人工知能によって、われわれ自身が高度な知能を使う職業や職場から放逐されようとしている。もちろん農業を含めモノを作るという生産現場から多くの人びとはいなくなるだろう。

真の人工知能やコグニティブコンピュータを手にし、神の手を持つことになる人類は、超人類として次の高みに何の痛みやトラブルなしに登ることはもはや不可能なように思える。

人工知能の開発を精力的に推進する人たちの中には、「仕事をせずに好きなことをしていればいいのだからいいじゃないか」という意見も散見するが、果たしてヒトは好きな事だけをしていればそれだけで本当に満足し、心身ともに充足した人生を送ることができるのだろうか。生命科学の発達によりこの先150年、200年と長生きができ、生き続けることも可能になるという。われわれは、このような世界を快く受け入れ、次世代のあるべき姿だと素直に喜び望んで良いのだろうか。

人工知能の進化、発展、そして完成に向かう過程で、ヒトに必要なことは知能ではない。これまでは、社会的地位やお金を得るのに個人の知識や知能が重要なファクターであった。しかし、もはやそれを絶対的に必要としなくなる。それではヒトから知能を取り除いた後に残るもの、それはなんなのだろうか? それは、「優しさ」であり、「嬉しさや悲しみを共有する」ことであり、「怒りであり笑い」なのだ。「美しいものを美しい」と感じる『こころ』やヒトと同調できる『絆』なのである。

わたしは、これらを合わせて『愛』であると言いたい。

3・11の東日本大震災で全てのモノをなくした人々に残されたものはヒトとヒトとの『絆』だった。悲しみを分かち合える『こころ』だった。だからこそ、東北の人びとが見せたその『絆』に、優しい思いやりに世界中の人びとが感銘を受け、彼らに惜しみない応援のエールを送ったのだ。この人びとの『愛』が人間の原点を思い起こさせてくれた。

わたしはこの東北の人びとと、この受難の住民を助けるために集まった人たちが示したこれらの行為こそが、「本来の人間性」ではないだろうかと信じたい。

これからは夢を想像し、こころに感じるモノを創造することが大切になってくる。

古(いにしえ)からの言葉がある。人が人であるためには、「人は人によって生かされる」。「人は人の役に立って初めて人になる」のである。「ただ単に好きなことをしていれば」人になれるのではないことは、古人(いにしえびと)の言葉を待つまでもない。

ドイツ帝国の名宰相であるオットー・ビスマルク(1815年~1898年)の名言がある。

――愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ。そして聖人は経験から悟る――

このことわざの意味するところはよくご存じのことと思う。

さて、このことわざは、時代背景や時代感覚が先の時代と同じか統一されている時にこそ有効なのではないだろうか。

革命時のような社会的通念や常識が、天と地がひっくり返るほどの大転換期には、その姿はまったく異なる様相を現す。

これまでの産業革命以上の大変革を人びとに強いる第四次産業革命に立ち向かうために次の言葉を送りたい。

―愚者は歴史に学び、賢者は未来に学ぶ。そして聖人は真(もこと)の未来を創る―

歴史に習い、その教訓を生かすことに縛られていては、まったく次元の異なる時代には通用しないのだ。未来を想像し、それにチャレンジしていくフロンティア精神こそが重要なのだ。

一言で表すなら『勇気』だ。

勿論想定した未来が間違っていることは多くあるだろう。それにへこたれず、再びチャレンジする精神力と、それを認め、許す社会構造が求められる。

過去に社会構造や常識が天と地ほどにひっくり返った時代があった。それは明治という日本の産業革命の時代である。明治の元勲たちの多くは下級武士や商人、農民だった。彼らは、徳川という武士社会が有するヒエラルキーを含む習慣や慣習、慣例のすべてを廃棄し、欧米という「坂の上の雲」(注1)を日本の未来の理想像と見立て、ひたすらに駆け上がり追い求めたのだ。その中には明らかな間違いもあった。しかし、今日の日本の平和の礎を築いたことも事実である。

まだ遅くはない。これから始まる第四次産業革命に向けて、われわれ一人一人が明治という時代を切り開いた元勲にならなければならない。

2020年には東京でオリンピックが開催され、政府や東京都はその成功に向けて頑張っている。選手たちの送迎は人工知能を搭載した無人のバスがするそうだ。196か国(2015年日本政府承認)の外国人の案内は、タクシーやバス、あらゆる店や街角、そして広場に設置された人工知能を搭載した自動翻訳機が当たり前のように使われているだろう。(注1)そして、2024年、2028年のオリンピックには、さらに高度に発達した人工知能たちが何を見せてくれるのか、楽しみである。きっと想像すらできないものになっているはずだ。

期待も大きいのだが、日本に、いや世界の国々に人工知能という新たな恐怖の暗雲(クラウド)が覆っていないことを、未知なる『神』に祈ることにしよう。

−完−

参考文献
(注1)「坂の上の雲」 司馬 遼太郎著 文藝春秋社 1969年4月~1972年9月
(注2)AI同時通訳 五輪までに 政府、成長戦略に明記 日本経済新聞電子版 2017年4月17日)

工学博士 黒川 正弘

黒川正弘先生のプロフィールや著作については、こちらをご覧ください。

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