小寒
小寒や楠匂はせて彫師なる 坪野 文子
小寒は1月の初めの二十四節気で、今年は1月5日。この日から節分までが「寒」です。
したがって、小寒の日を「寒の入り」、15日後の1月20日を「大寒」、2月4日の「立春」の日を「寒明け」と呼ぶことになります。
俳句ではこの日を、「小寒」というよりも、「寒の入り」という言い方で詠まれることが多いです。寒気の極まる時期に突入するという意識が「寒の入り」に適しているからかもしれません。
この句は、木を彫る彫刻師の家で詠まれた句です。能面あるいは神楽面を彫っているのではないかと想像しました。楠は香りが良く、木目が美しいので面に適しています。正月の華やぎが過ぎて、また仕事に戻る彫師の姿が目に浮かびます。寒に入る日の緊張感と、木彫という伝統美、香りがもたらす豊かな心が感じられる小寒の美しい句だと思います。
能面師倉林朗能面展示室より画像をお借りしました。
ありがとうございます。
初仕事
職印の握り冷たき初仕事 堀米 義嗣
「初仕事」は新年の季語です。正月休みを終えて、それぞれの仕事に戻り、今年初めて仕事をするときに使います。
職印は職務上の印鑑を指すので、作者はサラリーマンでしょうか。新年の初出社で、使い慣れた印鑑を握ってみたら冷たかったというのです。休暇中はオフィスが暖房されていなかったので印鑑が冷えきっていたのは当然かもしれません。けれども、そこに着目して句に詠んでみたら、新年の引き締まった心が表われる句になったのです。
作者は、俳句を作り始めて5、6年の男性ですが、作品のほとんどが職場での体験です。一見、季節感の無さそうなオフィスで季語を探して、〈夕立や靴墨にほふ社長室〉〈受付の古株となり熱帯魚〉といった具合に詠んでいます。現代性がある作品で、若い人たちから共感を得ています。
寒林
寒林行く次第に若き眼となりて 永島 靖子
寒林は冬の林のことです。落葉樹は葉を落としきって裸木となり、常緑樹は暗い翳を帯びています。寒々しい光景ですね。季語としては「冬木立」と同じような意味ですが、寒林のほうが奥行を感じさせ、「カンリン」という音の響きも手伝って、凜然とした風景を想像させます。
作者は寒気のなか、乾いた落葉を踏みながら、林の中をずんずんと歩いていたのでしょう。ときおり聞こえる鳥の声も尖っているような気がします。寒さと孤独に負けそうになる己を奮い立たせるように、強い足取りで歩いていたら、次第に身体のなかから力が湧いてくるのを感じたのです。眼に入ってくるものの一つ一つを積極的な気持ちで眺めている自分に気づいた。心が若返ったと思ったのでしょう。寒い寒いと言って身を縮めたくなるこの季節ですが、この句に勇気をもらいました。
八ヶ岳山麓清里から~杏荘便りより画像をお借りしました。
ありがとうございます。
福島直也 さま
素敵な記事ですね^^
ブログの画像をお使いいただき、光栄です。
ありがとうございます。
できましたら出典を記載していただけますと嬉しいです。
どうぞよろしくお願いいたします。