季語でつなぐ日々

第13号/立冬、セーター、返り花

投稿日:2017年11月7日 更新日:

立冬

立冬のことに草木のかがやける  沢木 欣一

 立冬は冬に入ったという意味の二十四節気です。今年は11月7日が立冬です。

 季語では「冬立つ」「冬に入る」「冬来る」などとも使われますが、言葉によって少しずつニュアンスが異なるようです。「立冬(りっとう)」にはきりりとした響きがあって、寒気を迎える緊張感が伝わってきます。

 この句は立冬の日の草木の様子です。この季節、草は少し枯れ始めていますが、まだ色を残しています。落葉樹は木の葉を落とし始めていますが、まだ日差しを返す力があります。その様子が描かれました。真冬になる前の草木は殊に美しいというのです。言葉は素朴ですが、初冬の日差しと風景を見事に言い止めています。

 あと半月ほど経つと、この美しさは失われるかもしれません。移りゆく季節の微妙な変化を、見逃さずに味わいたいと思わせてくれる句です。


 
セーター

岳父着しセーターをまた我が肩に  浅野 雄一

 岳父は、妻の父のことです。妻の父からセーターを譲られたのでしょう。もしかすると形見をいただいたのかもしれません。そのセーターを普通に着るのではなく、肩に掛けています。両方の袖を胸元で結ぶお洒落なスタイル。一時期、流行しました。でも単にファッションとしてではなく、この季節はこのようにしたくなるのです。着ると暑いけれども、日差しが無い場所に行くと寒いから、セーターは手放せない、という冬の初めの気候です。

 それをさらりと句にしていますが、実父ではなく岳父であることから、人間関係が窺えて、味わいがあります。肩に置かれたセーターは、妻の父に「娘を頼むよ」と言わて置かれた掌の重さであり、温かさです。

 冬になると思い出すセーター、そして妻の父の存在。やがては自分も、婿に対してそうでありたいと思う「岳父像」が作者の中に育っているのでしょう。

返り花

返り花天の美神に愛されて  高屋 窓秋

 さくら、つつじ、山吹などの花が11月の小春日和に咲いているのを見かけることがあります。歳時記では「返り花」「忘れ花」「狂い花」などという季語になっています。

 普通に咲く花とは違った趣があると、江戸時代から季語になりました。俳句では、うっかりと咲き出た花、遠い記憶を蘇らせる花、ぽつんと咲いて寂しそうな花、という内容が詠まれてきました。

 ところがこの句は、天の采配で、二度咲きが許された花として詠まれています。天の美神といえば、ビーナスかもしれませんが、西洋の神に特定する必要はないでしょう。天上に美を司る神がいらして、特別の寵愛を受けた花だけが、再び咲くことを許され、今日ここに咲いているとはなんとロマンがあるのでしょう。「美神」で、この返り花がいかに美しいかも想像させます。

 小春日のなか、美神の寵愛を受けた花を探しに行きたくなりますね。

藤田直子先生のプロフィールや著作については、こちらをご覧ください。

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