ご了承を得て、全文を掲載させていただきます。
H・M様、ありがとうございます。
以下、H・M様よりいただきました感想です。
『復刻版 戦争放棄編』(寺島俊穂 抜粋・解説)を拝読致しました。非常に読みやすく素晴らしく感銘を受けました。感想お伝えしたくメールさせて頂きました。以下お読み頂ければ幸いです。
安倍首相は今年5月「憲法9条の1項・2項を残しつつ、自衛隊を明記する」旨の案を提示しました。また10月17日衆院選挙戦の争点の1つは憲法改正でありました。9条改正をめぐる各党の立場において、賛成に前向きなのは4党、慎重派は1党、反対姿勢にあったのは3党。そして国民一般調査において賛成:反対はほぼ50:50。
実際のところどちらが正しいのか?。インターネットから憲法改正賛成派の意見を纏めると、①最近の北朝鮮の不可解な飛翔体実験に対処する為(目下の問題対策型)。②竹島の不法占拠や尖閣諸島問題、あるいは排他的海域でのガス・油田発掘等、国益の危機を打開できる可能性があるから(自国利益重視型)。③攻められて無抵抗のままでいるのは不条理。自国を自力で守ることが明示されれば他国から甘く見られることがなくなるであろうから(感情型)。
*これらは個別的自衛権であって集団的自衛権ではないゆえ誤解の例。 ④国連憲章51条が世界の常識・標準であるのだから、世界の常識に反する現憲法に修正を加え現在の憲法改正を行うのは当然。集団的自衛権は合憲(理路整然型)。…等々です。
確かにこの70年の間に世界の社会・経済状況や力関係は目まぐるしく変わりました。その変化を強調して「時代に合わなくなったから憲法改正をすべき」との意向は正論に思えます。しかしながら、現憲法改正に関わる考察において、賛成派・反対派の両者の思考の源泉(source)には埋没していたものがありました。それは今回出版された『復刻版 戦争放棄編』の知識です。御書を拝読しましたら、既に70年前にも「他国から攻められたらどうする?」
「国連憲章との関係はどうなのか?」「共同防衛戦争」「国連への兵力の提供」「国内法と国際法の折り合いは如何するのか?」…など今と同じ懸念や疑問の声が上がっていたこと、それらを誠心誠意審議した事実とその経過が分かりました。
原爆投下の惨事、艱難辛苦を味わった国家・国民として世界に前例なき稀有なる憲法を決議する過程で交わされた発言のひとつひとつには計り知れない重みと価値があります。何よりも尊ばなければならないのは、「自衛権は残すべきではないのか」との反対発言が繰り返し行われたとしても、当時の国家指導者達が断固として捨身の態度で、憲法第9条2項の挿入の希望を貫き通し続けたことです。指導者達の言葉のひとつひとつは恒久平和実現の願い「平和主義」の決意表明であると共に、世界への警告でもあります。
p209で幣原喜重郎は「…今少し思慮のある者は、科学技術の駸々たる進歩の勢に目を著けて、破壊的武器の発明・発見がこの勢を以て進むならば、次回の世界戦争は一挙にして人類を木つ葉微塵に粉砕するに至ることを予測せざるを得ないであらう。…或範囲内の武力制裁を合理化合法化せむとするが如きは、過去に於ける幾多の失敗を繰返す所以でありまして、最早我が国の学ぶべきことではありませぬ。」と言っています。
現在そして将来、武器の高度化凶悪化がさらに進化したら、ひょっとして人力を要せずしてロボット(ドローン等)を用いて遠隔的に武器を投下する日が来るかもしれないし、また原爆以上の危険性を持って局所的に効果的に大量に人を殺す事も可能になるかもしれないし、あるいはサイバー攻撃によって国家の情報・経済・財政を混乱と破壊に陥らせる手段がとられるかもしれません。そうなると憲法改正がなされても、p199で高柳賢三が発言したように「…政治思想は科学の進歩に常に遅れる。…人類は自ら作った武器によって自らを殲滅する」ことになるかもしれません。
時代の変化としてもうひとつ考察を要することがあります。帝国憲法改正案の審議が行われた1946年は日本はまだ国連に加盟していませんでしたが、2017年現在は国連に加盟して61年目です。現状において、日本がいかに国連に貢献できるかを慮って現政府が憲法改正を検討しているとしても、安全保障理事会も総会も結局は政治的な機関であり、各国の利害が水面下にあり、そこでの行動は高度で複雑な政治的配慮等によって揺り動かされています。そこで現憲法が改正されるならば、⑴「平和」という名目の下に連合軍トップに巧妙に利用される危険性があるのではないか?。⑵国連軍傘下にある国家同士の間に利害が絡む問題が生じた場合(竹島問題等)、どの国連軍がどのように日本を守ってくれるのか?。⑶万が一、国連軍トップクラス同士が戦争を始めたら日本はどうするのか?。…等々の新たな憂慮事項、トラブルが生まれる可能性があるのです。
日本国憲法改正、賛否両論のどちらが正しいのか? 非常に 難しい問題です。それゆえ『復刻版 戦争放棄編』が「緊急出版」された重みをひしひしと感じております。序文p12に市川正義の「…日本国憲法起草の任に当つた政府の、立法当時に於ける公式の見解と、これに対する議会の批判とを知悉して置くことは、憲法を合理的に解釈するに必要なことであり、…」の言葉通りです。このメッセージそのまま今も生きています。
p383からの「解説」も拝読致しました。編者の偏りない公平な見地から書き出されて、当時の議員達の中にあった「軍備全廃の決意」の共有度の考察(p387)、自衛・自国防衛のための戦争も否定するのかという議論(p388)、政府の中にあった国連との関係に対する微妙な違いや戦争放棄に対する理解の違い(p391)…など奥深い事情を明瞭に解説・補完されています。
この解説により、埋没していた宝とも言える御書内容の価値の理解度が高まり、憲法改正議論と戦争放棄を考えるうえで必要不可欠な資料であると確信できました。
〈最後に感謝を〉
今は、戦争放棄の奥義が解き明かされることが必要かつ望まれている時です。これまで憲法改正をめぐる賛否両論双方の論拠は不完全であったように思います。基盤となり源泉となる資料・情報が不十分であった為です。この度は歴史の中に埋没し入手困難であった重要な文献を掘り起こして下さり、そして読む者の立場に立って、本来複雑で難解なものを万人が分かるように工夫して下さったことに敬服致します。 御書『復刻版 戦争放棄編』は読者への思いやりが感じられます。原本の重要部分の抜粋は要領を得ており、また審議録中の内容要旨を小見出しにしてゴシック体にして下さったことにより視覚的にもメリハリがあって区切りが付けやすく、さらにまた内容も纏まりごとに一行空間を空けて下さったことで読み疲れることなく飽きることなく、むしろ楽しさを感じつつ読み進めることができました。
三和書籍様と寺島俊穂先生のご配慮ご尽力に心より感謝致します。