薬の効能は「症状の緩和」
たとえば、「カゼ」という病気の場合、症状としては「発熱」「くしゃみ」「鼻水」「セキ」「体がだるい」といった症状が生じます。
これらの症状を緩和するのが「薬」です。薬を服用することにより、熱が下がったり、くしゃみやセキが出なくなったり、体のだるさが軽減したります。
しかし、薬によって「カゼ」が治ったわけではありません。カゼ薬が免疫を抑制し、治る過程で必要となる、発熱や体のだるさなどが緩和しただけです。
「カゼ」は、人間が持つ「自己治癒力」(自分で病気を治す力)でしか治せません。
自己治癒力とは、主に以下の3つから成ります。
対内に侵入した異物を殺したり排出したりすることと、変質した自己の細胞を殺傷して体を守る(免疫)
傷ついたり古くなったりした細胞を修復したり、再生したりする(修復・再生)
「カゼを治す薬ができたらノーベル賞ものだ」といわれるのも、「カゼを治す薬」はいまだに存在しないからです。
実際、カゼ薬の効能・効果としては、「かぜの諸症状(鼻水、鼻づまり、のどの痛み、せき、たん、くしゃみ、悪寒、発熱、頭痛、関節の痛み、筋肉の痛み)の緩和」としか書かれていません。
カゼを治すのは「自己治癒力」
では、自己治癒力によって「カゼ」はどのようにして治っていくのでしょうか。カゼの原因のほとんどはウイルス感染によるものなので、ウイルス感染の場合を考えていきましょう。
最初は、ウイルスと鼻粘膜やのどの粘膜との戦いです。鼻水やくしゃみ、セキとして、ウイルスを外に排出しようとします。カゼのひき始めに出る鼻水は、水分が多いサラサラした状態です。副交感神経優位の状態にして、分泌活動を高めているからです。
それでも排出できないウイルスが体内に侵入したら、今度はマクロファージ(単球)とリンパ球の出番です。
マクロファージが、侵入したウイルスを食べて断片化し、ヘルパーT細胞に提示します。ヘルパーT細胞は、キラーT細胞にウイルスを攻撃させるとともに、そのウイルスを特別に攻撃できる「抗体」をB細胞に製造させます。
ウイルスとリンパ球の戦いが終わると、サプレッサーT細胞が働き、キラーT細胞やB細胞に対し、これ以上ウイルスと戦う必要がないとの指令を与えます。そして、ウイルスの死骸や、ウイルスと戦ったリンパ球の死骸を、マクロファージが処理します。
ウイルスとリンパ球の戦いの間は、リンパ球が働きやすいように熱が出ます。ですから、ここで解熱剤や総合感冒剤(カゼ薬)などで熱を下げると、「発熱」という症状は緩和されますが、免疫が抑制されてリンパ球の働きが低下するので、「カゼ」の根本的な治癒にはかえって時間がかかることになります。
解熱剤を使わなければ、リンパ球とウイルスの戦いが続いている間は、発熱が続きます。自律神経も、副交感神経優位の状態です。
リンパ球の働きが勝ってウイルスとの戦いが終息すると、大量に汗をかいて熱が下がってきます。副交感神経優位から、交感神経優位の状態になってきます。
セキやくしゃみもおさまってきます。出てくる鼻水も、交感神経優位のために分泌活動が抑制されて少なくなり、粘りのある状態になります。
こうして、カゼは自己治癒力によって治っていくのです。
薬では病気は根治できない
薬では、カゼによる「発熱」「くしゃみ」「鼻水」「セキ」「体がだるい」といった症状を緩和することができても、カゼという病気を治すことはできません。それどころか、カゼの治癒を妨げるだけになります。
もっとも、「明日は、大切な仕事があるためにどうしても症状をおさえるしかない」といったときには、カゼ薬の服用もしかたないかもしれません。カゼ薬は、カゼを治す薬ではなく、症状をおさえるだけの薬で、しかも服用することで治癒までの時間がかかると認識していて、あえて服用するのは問題がないと考えます。
問題なのは、カゼ薬は「カゼを治す薬」だと思って、カゼを治したいと思って服用することです。カゼ薬は、カゼを治す薬ではなく、あくまでも「カゼの諸症状の緩和」であって、しかもカゼの治癒までに時間がかかる薬であることを知らずに服用することです。
同様に、他の病気による「下痢」「湿疹」「腰痛」「肩こり」「頭痛」「歯痛」などの症状も、薬で緩和することはできます。ただし、免疫を抑制することによる症状の緩和であって、根本的に薬では症状の原因となる「病気」を治すことはできません。
症状をおさえることはできても、根本的な治癒までに時間がかかったり、かえって治癒を遠ざけてしまったりします。また、薬を長期間使用すると、免疫を抑制することになり、交感神経の緊張を招いて、他の病気を引き起こす原因にもなります。
さらに、体内で分解できずに異物として残った薬(化学物質)は、正常な免疫の働きによって、皮膚から排出されていきます。その際、湿疹などの皮膚の炎症やかゆみなどの症状として現れます。つまり、薬を排出するために、新たな症状が起こってくるのです。
病気を治すために用いた薬は、不快と感じる症状だけを緩和していたのです。実は、不快と感じる症状は、病気を治すための免疫の正常な働きによって生じています。病気を治す目的で用いた薬が、結果として免疫の正常な働きを抑制し、治癒から遠ざけてしまいます。さらに、新たな病気や症状をつくり出すという皮肉な結果になります。
症状は、病気を治すために免疫が働き、体内に入った異物(細菌やウイルス、また化学物質など)を殺したり、対外に排出するために必要なものだたったのです。起こってくる症状は、細菌やウイルスなどの増殖する異物には攻撃をしかけるための発熱など、化学物質などの増殖しない異物には皮膚の炎症や湿疹などになります。
薬は症状をおさえる力しかありません。ただし、症状は、体内での免疫の正常な働きの結果として現れているのです。免疫の正常な働きによって、体内の異物を攻撃したり排出するためには、症状は不可欠なものだったのです。
症状が起きているときは、病気を治すために、免疫が正常に働いていると思ってください。
最終的に「病気」を治すのは、自己治癒力以外にありません。